− タ ン −

肉
 みなさんよくタン、タンとおっしゃいますがタンとはいったいなんなのかと考えたことはありますか。どうせありませんよね。滾る肉欲の前には血に濡れた肉片の元の姿などどうでもいいことなのかもしれません。ですけれども、心のどこか隅にでも、貴方のごく個人的な肉欲を満たすために尊い生命が失われているということを忘れずに刻み込んでおくのも同じ地球の住人としてのマナーのひとつといえるのではないでしょうか。ではここでその一環として、少しタンについてのお勉強をしてみることにしましょう。

 一般的に焼肉屋に並ぶ「タン」とは、タン牛(ウシ科・英名レギオン)という種の牛の肉です。よく普通の肉牛の舌の部分であるという根も葉もない噂が流れていますが、これは間違いです。おそらく、タン、という言葉の響きが英語の"tongue"、すなわち舌に似ているということから生まれたデマだろうと推測されます。このタン牛は、見た目が丸く、ボール状になっており、全身にびっしりと舌が生えているという奇妙な姿形をしていて気味悪がられることもしばしばですが、実際はおとなしく、なつっこい性格で、最近では欧米諸国でペットとしても愛され親しまれています。

 さて、次はその生態についてですが、タン牛は全身に生えている舌で、丸い体を転がすようにして草をたいらげてゆきます。タン牛が通ったあとは綺麗に草がなくなっていることから、1980年代にはそれをみた無知なイギリス人がUFOの着陸した跡だなどという突飛なことを言い出したりもしました。まったくもって滑稽ですね。日本では北海道などで養殖もされていますが、高級料亭などで調理されるものは今でも職人たちの手により捕らえられた野生のタン牛だという話です。この職人たちは、タン牛が通りそうな坂道の下に毒を塗り、その上を転がり過ぎて弱ったタン牛を、専用の槍でひと突きするという昔ながらの方法で獲っているのですが、昨今は養殖ものが幅を効かせ、高価な野生モノは見向きもされなくなり、職人達は相次いで失業しているというのも日本の抱える重大な問題のひとつといわれています。
 なお、タン牛の内臓にはゾウをも2秒で即死させるという猛毒が含まれており、調理には専用の調理免許が必要です。まあ、普通の焼肉屋で並ぶ時はちゃんとした調理免許をもったシェフがタン牛を切り刻んでくれるので安心ですが、ごく稀にモグリの安い焼肉屋では免許をもつ調理師がいない場合もあります。そういう場合はたいがいタンがメニューに並んでいないことから推し知ることが可能です。

 さて。タン牛は、舌状の突起物の皮を剥ぎ薄くスライスしたものを塩とコショウで下ごしらえし、軽く焼いたところをレモン汁をつけて食べるのが一般的ですが、そのあっさりとした味わいは女性にも大人気。ただ、あっさりしたイメージを持たれている事が多いタンですが、実際はカルビと同等のカロリーを含んでいるのです。くれぐれも食べ過ぎには注意しましょう。
 なお、上タンというのはその舌状の突起物の根元のほうを表すものであり、タン牛単体からとれる絶対的な量は普通のタン塩とはかわらないため、店によっては値段が同じだったり、タン・上タンをごっちゃに混ぜて出すこともあると聞きます。混ぜて出す店では肉質が硬かったり、柔らかかったりと波があるのが特徴です。
 さて最後に、タンといえば仙台の牛たん定食(焼タン・麦飯・テールスープ)が有名ですが、その元祖である「太助」では実際のタン牛にお目にかかることができます。みなさまも是非、ご覧あれ。